老後の豊かな生活と金融資産運用の重要性

長尾数馬

1.はじめに
 大橋巨泉氏は、著書『巨泉』に『若いうちの仕事や会社は、あくまでも人生におけるひとつの手段であり、 究極の目的は「定年後の後半生」である』『そのための財政計画は早く始めることに越したことはない。
一応60歳でリタイアするとして、40歳で始めて20年、30歳からやれば30年の時間はある。
投資などの面から考えると長ければ長いほど有利だ』と書いています。
この本を読まれた方の中には、巨泉は自分の自慢話しかしないなどと感じた方も多いと思いますが、日本人に新しい生き方を紹介した点では評価しても良いのではと思っています。
大橋巨泉氏は実際に金融資産運用を実践し、56歳でセミリタイア宣言をした上で、現在はカナダ、オーストラリア、ハワイ、日本と季節に応じて場所を変えて生活をしています。
年金制度が整備され、日本に比べ数段と金融資産運用の機会が広がっている米国などでは、50歳台でのリタイアはごく当たり前になっているのはご存知だと思います。
しかし、日本では年功序列・終身雇用という日本独特なサラリーマン的構造を核に高度成長してきた経緯から、 50歳台でセミリタイア・リタイアを実践できたのは一握りの専門家、プロなどの自由業の方を除いては非常に少なかったと思います。
また島国に住む日本人の一律的な物の考え方も大きな障害になっていたことも否定できません。
しかし人生80年時代になっている現在では、引退後の20年〜25年間をどのようにして生きるかが大きな関心事項になっており、 またそのために必要な老後生活資金をどのように準備したら良いかが切実な問題として浮上してきています。
 

2.今後の日本の年金制度はどうなるか
 個人の私的年金もありますが、基本的には日本の年金制度は国民年金、厚生年金、共済組合のような公的年金とサラリーマンなどを対象とされる厚生年金基金、 適格退職年金のような企業年金の2本建てになっています。
しかし、日本の公的年金制度は現状のままで推移すると当然破たんすると言われています。また昨今の低金利の下では厚生年金基金・適格退職年金など、 企業年金の運用を任されている基金の運営状況も非常に厳しくなっており、定年後にその年金全額を受給できるかどうかは定かではありません。
つまり豊かな老後を過ごすための生活資金すべては保証されておらず、老後の資金の多くの部分を自分自身で準備しなければならない時代が来ているのです。
今年後半にも公的、企業年金制度を補完するための日本版401Kプラン(確定拠出型年金)という年金制度が国会を通過すると思われます。
これは米国の年金制度に類似したものを日本に持ち込むものですが、簡単に言えば税金面で優遇を与える代わりに年金部分の運用は自己責任でやってくださいというものです。
その背景には国・企業が何とかして自分達の負担を減らし、運用の責任を国民に押し付けようという意図が見え隠れしていますが、その是非を議論してもはじまりません。
今後は「年金額は確定されないが、税制優遇と複利のメリットを利用した適切な運用をすれば年金額が増える可能性がある」点に着目し、今後は何をすべきかを考えることが重要になってきます。
すなわち、国民一人一人が自分自身の老後の資金を確保するため、自己防衛のための簡単な経済・金融知識を身に付け、 ひとりのファンドマネジャーとして中長期的な金融資産運用をしていくことがベストの選択になります。
このような時代が来ているのにかかわらず、残念なことに日本人の投資教育は米国に比べ20年近くは遅れていると言われています。
自分のことは自分で守るという考え方が徹底している米国では、学生時代からの投資教育も当然のように行われています。
この背景には、日本では伝統的に投資・運用は博打、すなわち悪であるとのイメージが強く、また運用についての正確な知識を個人投資家に説明できる金融マンも非常に少ない点、 それに加えて欧米にあるような「金融サービス法」のような個人投資家保護の法律が日本では整備されていない点があげられます。
欧米では個人投資家保護のためのルールや罰則規定が非常に厳しいため、日本のように手数料稼ぎだけの悪徳金融業者・営業マンが横行しづらい状況にあるのも確かです。
また、昨今の株価下落の元凶とされ、今まで馴れ合いを演じてきた企業・銀行間の株式持ち合い解消売りが集中する状況などは、日本の資本市場の整備が遅れている最たる例だと思われます。

3. 今までの日本人の資産運用とは
 今までの日本人の資産運用は、戦後の経済復興策が原因となったこともありますが、土地神話を信じ、また保険好きな国民として世界的にも有名なように、不動産、保険、預貯金による運用が主流になっていました。
しかし、バブル崩壊以降の土地神話の崩壊や銀行・証券会社・保険会社などの破たんにより今までの資産運用手法が否定され、多くの資産家は資産評価額を激減させています。
しかしその反面、1998年4月からスタートした外為法改正をきっかけに外国への投資の条件も緩和され、また上場基準上問題はあるものの、マザーズ・日本ナスダック市場の開設により、ようやく欧米先進国並に資産運用の幅が広がり、運用方法によっては資産を増加させることも可能になってきています。
 それでは日本に於いて昨今のような異常低金利が長引き、株式市場も下落しつづける中で一体どのような資産運用を試みれば良いのでしょうか。
金融資産運用も日本国内だけに目を向けていると非常に限られたものになります。
例えば、昨年2000年は日本だけでなく米国などでの株式投資運用のリターンとしては最悪の年になりましたが、最近の円安状況を見ればお分かりのように、ドル建て外貨預金、USドルMMF、また米国債券などで資産運用したならば、2000年年末時点では為替差益を含め年10〜15%のリターンは得ることができたと思います。
株式と分散して投資したとすれば、株式投資の損失額はある程度埋め合わせができたことになります。
この発想は日本の株価が下落すると円が売られ円安になる可能性が高いということに注目して分散しています。
つまり相反する商品へ分散投資することによってリスクを分散し、中長期的に運用を安定させるという考え方を取ります。
例えば1999年のように株価が急上昇したケースを見てみても、逆に株式の値上がり益が円高による為替損失を埋めるだけでなく、それを相殺しても年10%以上のリターンが確実に得られています。

4.国際分散投資と中長期投資の重要性
 過去20年ほどの統計でも、分散投資する商品が多ければ多いほど、また長期であればあるほどリスクが軽減され、安定的なリターンを得ることが可能との結果が出ております。
 老後資金、住宅資金、教育資金などの目的により運用方法が異なることはありますが、有価証券での理想的な国際分散投資とは、明確な目標を決定した上で、現預金などの流動性商品、日本株式・債券、米国株式・債券、海外株式・債券、アジアやエマージング国(発展途上国)の株式・債券などへ分散して中長期投資することです。
投資理論ではひとつのかごにすべての卵を盛るな(Don't put all your eggs in one basket)と言われているように、中長期の国際分散投資が最も安定的な資産運用方法と考えられています。
良い例としては、歴史的な背景もありますが、ビジネス、金融を世界的視野で考え世界各国で活躍している華僑、香港系中国人、ユダヤ人などが長年の経験を踏まえて彼らの資産を国際分散していることを見ればお分かりだと思います。
今後は海外で活躍する若い日本人が増えてくる日本でも若いうちから国際分散投資の考え方を身に付けておく必要があると思います。
参考のために過去のデータを簡単に紹介してみますと、
過去10年間の投資リターン
日本株式 −1.6%  米国株式 +15.9%  アジア株式 +9.2%
エマージング株式 +9.1%  世界債券 +4.9%  日本債券 +6.7%
過去15年の投資リターン
海外債券 +4.65%、海外株式 +12.48% 日本株式 +6%
日本の預金などの流動性資金 +3.6%、日本債券 +6.3%、
10年単位の運用先の中で−1.6%と唯一マイナスを記録している日本の株式市場の収益率も15年単位ではプラスになっていることがおわかりだと思います。
つまり、10年〜15年の中長期にて国際分散投資すると非常に安定したリターンを求めることが可能であることを実証しています。

5.まとめ
 このように金融資産運用においては、短期的な運用においては大きなマイナスを記録することがあるのに比べて中長期的な運用ではマイナスとなる確率が非常に少ないことは過去の統計からも実証済みです。
つまり運用期間が長ければ長いほどリスクが軽減され安定した運用が可能になるため、老後の生活資金確保のためには非常に効果的であるということになります。
文頭での大橋巨泉氏が「投資などを考えると長ければ長いほど有利だ」と言っている意味をようやくわかっていただけたと思います。
まずは年率7、2%で10年間複利運用をすると元本が倍になるという基本的な計算式は覚えていただき、一度時間があれば計算機を叩きながら、ご自身のライフプラン、老後の生活資金設計をしてみては如何でしょうか。

6.最後に
 小生も約20年間、主に欧米外資系銀行の外国為替資金部に所属したことによって、国際金融市場での相場の怖さを嫌というほど経験してきております。
数十人に1人という適性の下に選ばれ、また胆力だけでなく、運さえも味方にし結果を出すことを強いられるプロの為替ディーラーですら勝ち続けることが至難であるのに、本業としない個人投資家が短期勝負の相場で勝ち続けられるどうかを考えていただきたいと思います。
最後に小生の好きなことわざを紹介します。
『財産に無頓着なことは、処しがたいリスクの1つである。お金には多くの天敵がいる ― インフレ、政治、無知。    ― 作者不詳 』 『短期投資を望むクライアントはグル(教祖)を求め、長期投資を望むクライアントは賢者を求める。グルはいない。― ハロルド・エバンスキー ― 』