雑感:「液晶屋からみたIT革命の10年」

平野 浩三

はじめに
 にっぱち会の仲間のみなさん、今日は。平野浩三です。
平野二郎氏(元物理科教諭)の三番目の息子といった方がわかりますね。
僕は日立製作所で液晶表示装置(Liquid Crystal Display Device=LCD)関連の仕事を もうかれこれ10年近くしていますので、「液晶屋」の目からみた自分のまわりのできごと、 特に今年の流行語ともいえる「IT革命」関係についての私見を述べたいと思います。

もちろん、以下と違った認識の方々が数多くおられると思いますが、僕自身は歴史学者でもパソコンメーカでも評論家でもなく、 あくまで文系の「液晶屋」であり、実務を通しての私見です。 認識不足や説明不足も多々あろうかと思いますが、あらかじめご了承下さい。


1. 「IT革命」って何が「IT革命」?
 「革命」って用語もけっこういい加減な言葉で、(中国の)天の命が革まって王朝が次の王朝にとってかわるとか、 西洋でいうところの”Revolution”にこの言葉を訳として便宜的にあてたとか、社会科の時間に習った覚えがあります。 日本語的には、とにかく半端でない範囲や程度・速度での変化を指しているようです。

では、どのくらい半端でない変化が一体どこで起きているのか? 「IT革命」っていうくらいだから「IT」(Information Technology=情報通信技術)の分野で「革命」が起きているのか? それは確かでしょうが、どの産業分野でも日進月歩で10年もたてば半端でないレベルでの変化は起きていると思います。

「IT革命」は、日進月歩した情報通信技術が社会的または政治経済的に大きな変化を急速にもたらしつつあることからから、 そう喧伝されるのでしょう。 また、多分に、そうもてはやすことで、新聞・雑誌が売れたり、TV番組の視聴率があがったり、講演会に人が集まったり、 余計な機能のついた電化製品が売れたり、国家予算をもらえたり、 企業内ですと開発や設備購入などの投資がなんとなく認められ易かったり、という部分もあるとは思いますが。

では、現実にはどんな「革命」が起きているのか? 現時点で僕に見えるのは、インターネットの普及と、それを前提としての関連サービス(関連産業)の拡大です。 なぜそう見えるかというと、液晶表示装置(LCD)の商売はまさにこの流れ(インターネットの普及と それに基づいた関連サービスの拡大)の影響をもっとも受けて大きく変化しつつあるからです。

そこで、以下に過去10年の液晶表示装置(LCD)ビジネスの大きな流れをご紹介し、 それが「IT革命」(そのものとその前哨戦)にいかに連動してきたか、現象面なども具体的に追って述べてみたいと思います。

2. 1990〜92年頃の「IT革命」=「OA」全盛の時期
このころの液晶の主な用途は「OA(=Office Automation)機器」と当時呼ばれていた分野でした。 FAX,ワープロなどで、パソコンはCRT=ブラウン管を使用するデスクトップ型が主流であり、 液晶を使うノート型は世の中に出てきたばかりでした(液晶の用途としてはほかに時計・電卓・ゲームもありましたが 金額的には小さいため)。東芝のルポやダイナブック、NECの98ノートなど買われた方も多かったですね。

「OA」は、「一太郎」(ワープロソフト)・「ロータス123」(表計算ソフト)などで個人がそれぞれの機器で書類を 個別に作成する程度の情報処理でした。 たとえば、職場で管理職が会議資料・企画書などの清書を「女の子」(今はこれは禁句ですね)にしてもらうイメージでしょうか。

印刷もカラープリンターは高いか画質が今ひとつでしたのでそれほど多くなく、液晶の画面も白黒でした (実際は黄色っぽかったり青味がかったりしていましたので、より本当の白黒に近づけていく途上でした)。 また、「OA」は情報革命ではあっても、通信革命としては不十分(せいぜいFAXの普及程度)だったと思います。

3. 1993〜95年頃の「IT革命」=「マルチメディア」の時期
1993年以降、パソコンを中心にあらたな情報革命が起きました。
1993年の「ウインドウズ3.1」、1995年には「ウインドウズ95」というソフトがそれぞれ日本語で発売され、 パソコンを職場や家庭で使用しやすくなりました。 わけのわからない呪文のような命令語の入力なしで、「絵」(アイコン)のところに「⇒」(ポインター)を もっていって1〜2回押せば(クリック)よくなったり、異なるメーカーのパソコンでもデータが 共有できるようになった程度でしたが、それでも従来のこの道具の使い勝手からみて大きく改善されたわけです。 これ以降、世界でパソコンの販売台数が急増しました。 このころは世界全体で約4000万台、うちノート型が600万台くらいと記憶していますが、 2000年では全部で1億2000万台、うちノート型が2500万台くらいの販売台数になりそうです。

ウインドウズの普及はソフト面でのあらたな情報革命の一環かもしれませんが、 ハード面でも機器内部(部品)での情報処理能力も向上されました。たとえば、
*CPUといわれる「計算者」;16MHz→100Mhz→600 MHz→(1-2GHz?)
*あるいは「計算者」用の作業机であるメモリ;4MB→16 MB→32 MB→(64MB?)
*さらには机の引出にあたるHDDなど;100 MB→1GB→(1TB?)

これらは要するに「サイボーグ009」の加速装置のようなものです。

能力が向上した結果、パソコンの情報処理対象や機能が拡大しました。 処理対象は従来の文書の単なる清書だけでなく(最初からの作成も含めて)、 図表・グラフ、写真、音声などです。機能はレイアウト・編集(作曲?)などへ拡大、 「マルチメディア」機器という言い方がはやりましたね。

「マルチメディア」もわけのわからない言葉ですが、本質は情報のデジタル化と理解しています。 音も絵も文字も情報を全部デジタル信号に変換することで、簡単にパソコンの中で編集できたり、 ほかのパソコンに送ったりできるようになったわけです。 異なるパソコン間での伝達が可能な電子メールの普及もこの一環です。おそまきながら通信面でも革命が起きたわけです。

この結果としての液晶の変化は、ノートパソコン用需要の拡大とカラー化の進展・表示画面の大型化でした。 ワープロは衰退し、職場や書斎であまり場所をとりたくない、どこでも好きなように(電子メールを含め) 情報処理したいというニーズからノート型パソコンが増加しました。 またパソコンの操作画面で急激に「絵」を使うようになったことから、文字なら許された白黒画面が急遽、 色をつけなさいと言われ出したわけです。

絶対数量の増加、白黒→カラー化による付加価値の急増で、液晶は電子製品業界の中でも高度成長産業とみなされ、 国内外で新規参入が増加。慢性的な過当競争と過剰投資の産業になりました。

尚、通信面では、携帯電話端末の売切りがこの頃始まっています。

4. 1996〜2000年の「IT革命」=「インターネット」普及の時期
パソコンユーザーの増加と平行してそれらを結ぶネットワーク環境も上の時期までに整備されました。 たとえば、職場内でいうとサーバーと呼ばれる高性能コンピューターに全体の情報が保存され、 多数の普通のパソコン(クライアントと呼ばれる)がそれにつながることで、一番簡単・小規模なネットワーク (LAN=Local Area Network)が一般的になりました。 最近は自宅にサーバーを持つ人も増えているそうですが。 このサーバー同士を世界的につながるようにしたのがインターネット(=ネットワークのネットワーク。 インターネットワーク?)です。

インターネット技術自体の歴史は古く、米ソ冷戦下の一種の軍事技術だったようです。 しかし1990年台に冷戦が集結し、軍事技術であるこのネットワークのネットワークが一般に解放され、 最初は学術的な利用から民間利用が始まりました。 やがて米国の賢い人達などが金儲けになりそうだということで、いろんなビジネスに利用し始めたのが この時期だと認識しています。インターネットを通じての書籍含む物品販売、ホテルや航空券の予約などですね。

パソコンユーザーが増加してインターネットが普及、インターネットが普及してまたパソコン需要が拡大して来ました。 2000年にはパソコンの出荷台数が日本及び世界でTVを上回りました。液晶の販売も過当競争と過剰投資を くりかえしながら高成長を続けています。

5. 21世紀の「IT革命」=「?」の時代
「IT革命」と表現されるほどの変化は、米国や欧州ではいくらか見られますが日本ではまだ実体は乏しいと感じています。

そもそも、なぜインターネット経由で物を買わなければいけないか?ほかの方法と比べて何のメリットがあるのか? 欧米の企業は商品の販売や資材調達をインターネット経由で行うことで、広範囲・迅速に商品情報の提供と入手を 行おうとしています。 また、自社の商品販売情報を自社や仕入先とも共有して無駄な仕入れ・生産・在庫を減らし、 売れ筋の商品の出荷量増対応が瞬時に行えるような体制作り(SCM=Supply Chain Management)を進めています。 すべての企業とは思いませんが。

実はインターネットの道具でもあるパソコン自身も、売れるものと売れないものの差が激しく、 意外とメーカーは無駄な仕入れ・生産・在庫をもたらす一方で機会損失を繰り返しています。 液晶もその需要の波をまともにかぶって今年も生産・販売の増減を繰り返してきました。

サービス面では、住民票や出生届けを含む役所との書類のやりとりは全部インターネットでとの構想が多くの国であります。 そのうち投票や公共料金などの銀行振込、ありとあらゆるサービス(医療・介護など除く)がネット経由でも可能 になると思います。家や職場にいながらにして世界中の情報が手にはいる可能性を秘めていると同時に、 意思決定も瞬時に対象相手に反映・配信できるメリットがあります。もちろん世界に名高い日本の通信料の高さと、 なんといってもセキュリティの問題がネックですが。

一方、インターネットを一般の市民のものとして考えれば考えるほど、そのための機器としてのパソコンは、 使いやすさ、価格面から限界に来ているとも思われつつあります。 インターネット機器としてのパソコン代替品の一番手は携帯電話という見方もあります。

携帯電話ですが、数年前の端末の売切り化以降PHSとの競合を経ての料金低下により加入者が激増したところへ、 1999年にi-Modeが登場、インターネットと携帯電話が融合し、2000年には日本では、携帯電話の加入者が固定電話の 加入者を上回りました。 2000年の携帯電話端末の販売は日本では年間4000万台ほど、世界では今年4億台ほどとなり、 電子部品メーカが部品供給不能で大混乱、液晶も同様でした。

携帯電話用液晶は、パソコン用以上に消費電力を低く重量を軽くするよう要請されており、 さらにi-Mode利用拡大・アニメやゲームなどの動画配信が今後始まることから、カラー化も必要になってきています。 画面は小さいもののパソコン用以上に技術的に難度の高い部分があります。

以上、ワープロ→パソコン→携帯電話?という「IT革命」の一つの系譜を述べました。しかし液晶屋にとっては、もう一つ、 そして最大の分野が残っています。TVです。

21世紀のTVはみな液晶型だと吉永小百合さんが某社のCMで言っていますが、そこまではいかないもののデジタル放送が やがてTV放送の主流になりTVでのインターネットアクセス環境が整えば、パソコンや携帯電話ではなく、 液晶TVが「IT革命」時代の機器の本命になるかもしれません。

液晶屋の悲願でもあります。
いろいろな方のご意見をいただければ幸いです。